観測者のいない記録

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砂塵がヴァルデアの荒野を灰色に塗る。風に背を向けた。地平線に街が見えた。ドーラン。北の交易路の街だったが、黄金時代の終わりとともに死んだ。

左手が熱い。紋章だ。生まれた時からある刻印が、今日は焼けるように痛む。ザル=カラムが近い。

街門に衛兵が二人。槍を構えている。あなたを見た。そして、見なかったことにした。

街門の脇に掲示板がある。色褪せた紙が何枚も。その中に一枚だけ新しいものがあった。

「ザル=カラム調査隊募集。報酬:金貨五十枚。依頼主:ドーラン商人組合」

その下に赤い墨で別の紙が重ねてある。「警告——過去三ヶ月で四十七名が向かった。生還者:なし」

紋章が脈打った。

油と鉄の臭い。「鉄の爪」の扉を開けた。老ドワーフが無言で剣を磨いている。顔の左半分が白く焼けただれていた。

棚は半分空だ。短剣(金貨三枚)、剣(金貨八枚)、手斧(金貨五枚)。

金貨三枚を差し出すと、職人は無言で短剣を渡した。刃は古びているが、刃こぼれ一つなく丁寧に手入れされている。柄の握り感も悪くない。実用に足る品だ。

受け取ろうと手を伸ばした瞬間、職人が低く言った。「……五十年前にも、そんな紋章を持つ奴がいた。あの遺跡に入っていった。二度と出てこなかった」

それだけ言って、職人は口を閉じた。剣を磨く手が再び動き始める。話は終わった。

砥石が止まった。「あそこには行くな」

「七人で入った。帰ったのは私だけだ。仲間は皆、死んだ者の声に引き寄せられた。あの遺跡は弱いところを突く」

「その紋章を持つ者は、特に」

あなたは左手を見た。職人はまた磨き始めた。

路地の奥に人影がある。ゴブリンだ。継ぎ接ぎの外套。腰に短刀を二本。壁に背をつけて動かない。

逃げる気はないらしい。目を細めて、あなたを上から下まで見た。値踏みする目だ。路地で長く生きてきた者の目。

「情報を売る」と言った。「金貨一枚。損はさせない」

ゴブリンは受け取ると目を見開く。指先で硬貨の重さを確かめ、それから素早くポケットへしまった。「ナック、って呼んでくれ。情報屋だ。今日拾ったのがこれだ」と彼はポケットから小さな石板を取り出す。表面に細かい文字が刻まれている。「商人が捨ててた。読んだら面白いことが書いてある。『ザル=カラム、地下一層、左の廊下、三番目の扉』ってな。何の扉かは分からない。でも値打ちものだろ」

ナックはあなたの左手の紋章をちらりと見た。その目が一瞬、意味を読むように細くなった。「あんた、ザル=カラムに行くつもりだろ。体が引き寄せられてる。おれには分かる。じゃあ、この情報、追加で売る。金貨二枚。どうだ」

ナックの耳が立った。「じいちゃんから聞いた話がある」

「三百年前、黄金時代が終わった夜——ザル=カラムで爆発があった。その夜から星脈術師が力を失った。一夜にして」

「ヴォルカネスのしたことだ。元は賢者だった。何かが間違った。今は封印されている。三百年間」

耳が動かなくなった。「あんたの紋章、前から光ってたか」

ナックは声を落とした。「正直に言う。あんたを利用しようとしてた。一緒に行けば遺物が手に入る。それを売ればここから出られると思った」

目をそらした。「でも紋章を見たら——そういう話じゃないと分かった。あんたは引き寄せられている。情報屋の勘だ」

「連れていけ。道中の情報は全部頭に入っている」

「金貨が足りない」とあなたは言った。

ナックは耳を立てた。少し驚いたような顔をしてから、「正直なやつだな。じゃあこうしよう。金貨はなくていい。その代わり、ザル=カラムで見つけた古代の品物のうち、一つをおれに選ばせてくれ。価値があるものを一つだけ。それで十分だ」

「ただし、命が懸かっている場面では先に行かせてもらう。おれは情報屋であって、戦士じゃない。これは最初に言っておく」

十一

北の方角に青白い光が瞬いている。ザル=カラムだ。毎晩少しずつ強くなっているという。宿の窓から外を眺めていると、街灯の届かない路地に人影が動くのが見えた。

部屋の外から声が漏れてきた。壁越しでくぐもっているが、内容は聞き取れる。「あの紋章の冒険者か。そいつを利用できる」。別の声が応える。「紋章があれば遺跡の扉が開く。何としても、紋章が必要だ」

あなたは静かに剣を手に取った。

十一の二

路地に降りると、人影はすでになかった。しかし地面に何かが落ちている。小さな金属製の円盤だ。直径は親指ほどで、表面に細かな幾何学模様が刻まれている。拾い上げると、左手の紋章がわずかに反応した——ほんのわずか、しかし確かに。

裏面に文字がある。古代語だが、意味は読み取れる。「闇の商会」。あなたはこの名前を知らない。しかし、それが危険なものであることは、手のひらに伝わる微かな冷たさから分かる。

十二

「何か御用かい」マグダは布巾で杯を拭きながら、あなたをちらりと一瞥した。ハーフリングにしては背が高く、肩幅もある。かつてはドーランの自警団に所属していたという話だが、今の穏やかな顔立ちからそれを想像するのは難しい。ただ、その目の奥に宿る鋭さは、長年この街で生きてきた者のものだ。

酒場は半分ほど埋まっている。テーブルに着いた者の多くは旅装束で、腰に武器を提げている。冒険者風の者たちだ。皆、どこかへ向かう目をしている。行き先は一つしかない。全員ザル=カラムへ向かうつもりだろう。そして全員、戻ってこないだろう。

十三

「二十年この街にいる」マグダは杯を拭きながら言った。手は止めない。「ザル=カラムへ向かった冒険者は何十人もいた。誰も戻らなかった。それでも来る」

布巾が止まった。「引き寄せられるからだ。光が強くなるたびに、来る者の目が変わる。欲じゃない。呼ばれている目だ」

あなたの左手を見た。一秒だけ。「お前も同じ目をしている」

十四

「私も見たから」とマグダは静かに言った。初めて声のトーンが変わった。「二十年前、この街に来た時から。毎晩同じ夢を見る。あの遺跡の奥に続く闇と、その中で待っている何か。だからここを離れられない。でも二十年間同じ夢を見続けて、今は怖くはない。慣れた」

「お前に一つ教えてやる。ザル=カラムの地下には三層ある。地上層、地下一層、地下二層。最下層の奥に星の間がある。そこに答えがある。どんな答えかは知らない。でも、皆そこへ向かって死んでいった」

杯を拭く手が止まる。マグダは杯をカウンターに置き、まっすぐあなたを見た。「生きて戻れ」

十五

「五十年前、弟がいた。ドゥルムという」と老ドワーフは言った。声が低く、乾いている。「ザル=カラムに行くと聞いた時、私は止めた。一週間、毎日止めた。だが弟は聞かなかった。あいつはいつもそうだった」

老ドワーフの声が、しばらく途切れた。「弟の名はあそこの石碑に刻まれている。地下一層に、死んだ冒険者の名前を刻んだ石碑がある。五十年前はまだ余白があった。今は満杯だろう」

「だから行く。弟の名前を、自分の目で確かめに。それだけだ。それだけのために五十年間、生きていた」

十六

シラはあなたの問いを聞いて、静かに目を伏せた。「私はヴォルカネスを知っている。人間だった頃の彼を。三百年前、彼はオルト=ヴァルという名の星脈術師だった。温厚な男だった。声も穏やかで、弟子たちに慕われていた。研究に人生を捧げていた」

「何が彼を変えたのか、私にも分からない。ある日、別人のようになっていた。ヴァルデアの星脈を独占しようとした。力の独占が何を意味するか、分かっていたはずなのに。多くの者が死んだ。私は逃げた。弱かった」

「三百年間、私はここにいる。彼が封印された場所の近くに。あの時逃げた理由も、ここに留まり続ける理由も、自分でもよく分からない」

十七

ゴルムは振り返らなかった。

沈黙。それから低く笑った。「五十年前は怖かった。足が動かなかった。だから弟が一人で降りた。そのまま戻らなかった」

「今は違う。怒りの方が大きい。怒りは恐怖より長く燃える——それが分かるまで五十年かかった」

十八

神殿の奥の礼拝堂に、一人の男が横たわっている。三十代と思われる人間で、革鎧がずたずたに裂けている。意識はあるが、顔色は青白く、目の焦点が定まらない。五日前にザル=カラムへ入り、他の仲間十五人と共に地下一層を目指したという。

「番人に気づかれた」と男は言う。声が掠れている。「走った。全員走った。私だけ逃げ切れた。仲間は……全員中に残っている。生きているかどうか、分からない」

その目に光はない。生きて逃げ延びたことを喜んでいるのか、後悔しているのか。読み取れない。

十九

「賢者の間に何がある」とあなたはオルドに聞いた。

老司祭は羊皮紙の地図を指でなぞった。「その部屋に入れるのは、紋章を持つ者だけだ。三百年前、最初の封印が施された日から、紋章なしでは扉が開かない。中に何があるかは私にも分からない。しかし古い文献によれば、ヴォルカネスの封印を強化する、あるいは完全に閉ざすための鍵がそこにある」

「その紋章は、三百年前の賢者が刻んだものだ。あなたの先祖が関わっているのか、あるいはあなた自身が過去のどこかでその場にいたのか——私には分からない。しかし、その手の熱さが、あなたに答えを求めていることは確かだ」

二十

謎の金属円盤をオルドに見せると、老司祭の顔色が一瞬で変わる。素早く周囲を見渡してから、あなたに近づき、声を潜めた。「これは……闇の商会の印だ。ヴォルカネスの復活を望む組織だ。現在の混乱から利益を得ている。星脈が枯れたままであることで、独占できる力がある者たちだ」

裏面の文字を読み終えた老司祭が、円盤を素早く返してきた。「持っていろ。しかし気をつけろ。この印の持ち主は、今もこの街のどこかにいる。お前を探している」

神殿の外で、風が唸った。

二十六

二階の部屋は狭いが、清潔だ。金貨一枚。藁のベッドに横になり、左手の甲の熱を感じながら目を閉じた。旅の疲れが体を重くする。しかし眠りはなかなか来ない。

夢を見た。暗闇の中に、巨大な扉がある。石で作られた扉に、無数の古代文字が刻まれている。文字は光りながら流れている——まるで生きているかのように。左手の紋章が応えるように光り始め、扉が内側から押されるようにゆっくりと開こうとした。

そこで目が覚めた。夜明けの少し前だ。宿の外では荒野の風が鳴っている。左手はまだ熱い。

三十五

金貨一枚をカウンターに置くと、マグダは素早くそれを懐にしまい、声をさらに低くした。身を乗り出すようにして言う。「ザル=カラムの光が灯り始めてから、ここに集まる連中の顔つきが変わった。普通の冒険者じゃない。欲で来ているんじゃない。目が違う。あの光を見て、引き寄せられた者の目だ」

「三日前、黒いローブの男たちが酒場に来た。三人組だ。誰にでも同じことを聞いて回っていた。紋章持ちの冒険者を見なかったか、と。お前のことを探している者がいる。名前は知らないが、目的はある」

三十六

カウンターの端に若い男が座っている。革鎧。腰の長剣に貴族の家紋が彫られていた。

あなたの左手を見た。それだけで立ち上がった。「パロ国貴族の三男、ラルハスという。ザル=カラムへの依頼を三つ受けたが、三つとも依頼主が死んだ。あんたと行く」

笑顔は自然だった。しかし一瞬、視線が逸れた。どこを見たのか、追えなかった。

三十七

ラルハスは革鞄から古い羊皮紙を取り出した。丁寧に折り畳まれており、広げると精密な見取り図が現れた。ザル=カラムの地上層だ。「番人ゴーレムの動作パターンを調べた」と彼は言う。「奴らは音と光に反応する。静かに、かつ素早く動けば、気づかれずに通過できる箇所が三つある。ここ、ここ、そしてこっちだ」

図面は精密だ。何週間もかけて作ったものだと分かる。線の細さと角度の正確さが、それを物語っている。

「ここが初めてか」とあなたは聞いた。

「ああ。書物と聞き込みで作った」とラルハスは答えた。

彼は地図を丁寧に折り畳んだ。その手つきに、迷いも緊張もなかった。

四十七

「錆びた剣亭」はドーランで唯一まともな酒場だ。扉を押し開けると、煙草の煙と獣脂の臭いが鼻を打つ。床には枯れた藁が散らばり、天井からは煤けた蝋燭が数本ぶら下がっている。

カウンターの奥では、ホビットの女将が布巾で杯を拭きながら胡散臭そうにこちらを見ている。テーブルに複数の人影がある。旅装束の冒険者風の者、地元の商人らしき太った男、そしてフードを深く被って顔を隠した者が一人。全員がこちらをちらりと見て、すぐに視線を外した。

五十八

老ドワーフの名はゴルムという。かつて王国近衛隊の隊長だった。

「弟がザル=カラムで死んだ。五十年前のことだ。だから行く」

右手は四本指だった。

六十一

神殿は街の北の端にある。石造りの質素な建物で、装飾らしい装飾は何もない。扉は固く閉ざされており、外からはほとんど音も漏れてこない。ノックをすると、長い沈黙があり、やがて細く扉が開いた。

老いた目がのぞいた。皺の深い顔、白い眉。司祭だ。その目がすうっとあなたの左手に向けられた。刻印を確認する。それから扉を大きく開けた。「お待ちしていました」と彼は言う。「ずっと、待っていました」

八十三

三人組のテーブルに近づくと、老ドワーフがじっとあなたの左手を見た。杯を持つ手が止まる。「……その紋章」と彼は言う。声に力がある。「どこで手に入れた」

「生まれた時からある」

三人は顔を見合わせた。フードの人物が微かに息を飲む。老ドワーフがゆっくりと立ち上がった。

九十二

フードが落ちた。銀髪。緑の瞳。瞳に三百年の重みがある。首に黄金時代の護符。

「三百年、ここで待っていた。紋章持ちが来るのを」

「シラという。伝えなければならないことがある」

百七

司祭の名はオルドという。神殿の奥の小部屋に通されると、彼は震える手で古い羊皮紙を広げた。ザル=カラムの地図だ。地下三層にわたる構造が、几帳面な筆致で細かく記されている。「私が若い頃から持っているものだ」とオルドは言う。「正確かどうかは保証できない」

「地上層は番人ゴーレムが守っている。彼らは黄金時代の技術で造られた自動の番人で、今なお動き続けている。地下一層には研究区画がある。地下二層には神殿がある——星脈術の祭壇だ。その紋章があれば、祭壇に触れることができる」

オルドは羊皮紙を折りたたみ、あなたに押しつけた。「これを持っていけ。私はこの街から出られないが、これがお前の命を救うかもしれない」

百二十三

「地上層は番人ゴーレムが守っている。地下一層には研究区画がある。地下二層には神殿がある——星脈術の祭壇だ。その紋章があれば、祭壇に触れることができる」とオルドは繰り返す。

「地下三層には、星の間がある。ヴォルカネスが封印された場所だ。三百年間、誰一人としてそこへ達した者が戻っていない。その意味を、理解しておいてほしい」

百四十五

街門を出て間もなく、道の真ん中に人影が立っている。最初は見間違いかと思った。しかし違う。

巨大だ。人間の二倍はある巨躯が、荒野の光の中に黒くそびえている。黒鉄の鎧に全身を包み、背丈を超える大剣を地に突き立てて、両手で柄を握っている。オークだ。その目は血のように赤く、太陽の光を吸い込むように輝いている。

「通行料だ」とオークは言う。声が荒野に響く。「金貨五枚。払えないなら、ここで終わりだ」

百五十二

荒野を三十分ほど進んだところで、岩陰から何かが飛び出した。地面が揺れた。

ゴブリンだ。しかし普通のゴブリンではない。人間の二倍はある巨躯に、筋肉が異常なまでに発達した四肢。顔の半分が焼け爛れており、皮膚が溶けて固まったようになっている。目が四つある——元は二つだったはずの場所に、黒い眼球が四つ並んでいる。ゴブリンブルートだ。黄金時代の魔法実験で生まれた変異体だという話を、どこかで聞いたことがある。

咆哮が荒野に響き渡った。

百六十七

「一緒に来るか」とあなたは四人組のリーダーに言った。赤いスカーフを巻いた男が、しばらくあなたを見た。仲間たちと目を合わせてから、また戻ってくる。

「……あんた、紋章を持ってるな」と男は低く言う。「見たことがある。あれは……本物か」

「本物だ」

男は息を吐いた。「俺たちは向かない。遺跡の内側は俺たちの領域じゃない。力仕事は得意だが、古代の罠や魔法の番人は別の話だ。ただし、この荒野については詳しい。水場、山賊の縄張り、安全なルート——それは教えられる」

百七十九

山賊は三人組だ。それぞれが短剣と革鎧で武装している。リーダーは額に古い傷跡がある三十代の男で、目に飢えた光がある。荒廃した大地で生き延びてきた者の目だ。油断はない。

「財布を置いていけ」とリーダーは言う。「紋章持ちの冒険者か。ならば金も持っているはずだ。賢い選択をしろ」

百八十八

森の入口に着いたのは夜半過ぎだ。古い木々が頭上を覆い、星が見えなくなった。シラが先導する。エルフの目は夜でも見える——人間には闇しか見えない場所を、彼女は迷わず歩く。

しばらく進むと、木の根が複雑に絡み合った場所に出た。シラが手を上げて止まった。「足元に気をつけろ」と彼女は言う。「ここから先、地面が信用できない。落とし穴のような窪みが随所にある」

百九十四

古代の街道は舗装されていたが、三百年の歳月がそれを半ば荒野に戻している。石畳の隙間から草が生え、割れた石が足元に散らばっている。道の脇に荷馬車が一台止まっている。御者の老人が、馬に木桶で水を飲ませている。

一行が街道を進み始めてしばらくすると、前方に篝火の光が見えた。複数の人影が動いている。

二百三

ザル=カラム。黒い石が荒野に聳えている。半分以上が地下に沈んでいた。地上だけで小さな町ほどの規模がある。

紋章が痛んだ。熱ではない。痛みだ。建物全体があなたを引いている。

正門の石像が二体。動かない。しかしその目が——こちらを向いていた。

二百十五

石像が動いた。右の一体。石の擦れる音。目が赤く光った。

番人ゴーレム。高さ五メートル。三百年間ここを守ってきた機構だ。止まる理由がない。

二百二十九

地下一層。石の廊下が続く。両脇に扉が並んでいる。空気が冷たい。硫黄の臭いがする。

廊下の奥に石碑があった。無数の名前が刻まれている。ここで死んだ者たちの名だ。上部はすでに文字で埋まっていた。いちばん上はもう読めない。

足元に革袋。中に紙切れが一枚。文字はほとんど滲んでいるが、一行だけ読めた。「——案内役を信じるな。奴は二度目だ」

扉の向こうから、微かな笑い声がした。「また来たのか……また来たのか……」繰り返す声。ドアノブを回すと、ふわりと白い霧のような何かが漂い出てくる。実体があるのかないのか分からない。しかし確かにそれは、こちらを認識している。
【雑魚】ピーターの亡霊 ─ 経験値稼ぎに最適な遺跡の住人。本人も倒されることを楽しんでいる節がある。
二百三十五

廊下の隅に、人が倒れている。最近ではない。革鎧は錆び、肉はとうに失われており、骨格だけが残っている。首の骨に、何かが引っかかっている。

黒い首飾りだ。石のような素材でできており、小さな髑髏を模した形をしている。文字が刻まれている——「これを装備した者は、いかなる攻撃からも身を守る力を得る。しかし代償として――」残りの文字は黒く滲んでいる。血か、あるいは別の何かで。

首飾りは冷たい。手に取ると、左手の紋章がわずかに反応した。

二百四十一

扉の向こうから冷気が吹いた。

部屋の中央に黒い靄が浮いている。人の形だが、輪郭が安定しない。目だけが赤い。

「三百年」と靄が言った。「誰も来なかった。お前が来るのを待っていた」

「ヴァズという。かつてオルト=ヴァルの弟子だった」

二百五十六

「賢明だ」とヴァズは言う。靄が動き、あなたの左手の紋章に触れた。氷のような冷たさが指先から這い上がる。そして何かが変わった感覚がある——紋章がわずかに輝き、すぐ消えた。記憶の欠片のようなものが流れ込んできたが、掴む前に消えた。

「地下二層への道を教える」とヴァズは続ける。「神殿区画だ。そこに星脈の祭壇がある。祭壇を通れば、星の間に入れる。ヴォルカネスのいる場所だ」

「気をつけろ。祭壇は紋章持ちを引き寄せる。それが最初からの設計だ。覚悟しておけ」

スライム遭遇

それはそこにいた。壁と床の境目、空間が歪んでいる箇所に、それは存在している。透明に近い。しかし確かに、何かがある。輪郭が定まらない。大きさは人の頭ほどだが、触れようとすると指が滑る——触れているのに触れていない感覚だ。

ヴァズの日誌に一行だけ記述がある。「観念的な硬いスライム。実体を持たない概念が、物質として誤って顕現したもの。一撃でも有効打を与えれば消滅するが、その一撃を当てることが難しい」

それはゆっくりとあなたに近づいてきた。

スライム勝利

有効打が入った瞬間、それは音もなく消えた。何かが「解決された」という感覚だけが残った。

床に、小さな透明な結晶が落ちている。スライムの核だ。手に取ると、ひんやりと冷たい。硬い。確かにここにある。概念を打ち破ったのだから、通常の三倍の経験が蓄積された感覚は当然かもしれない。

二百六十三

「断る」とあなたは言った。

封印された賢者ヴァズは、しばらく沈黙した。水晶の中の光が不規則に揺れている。三百年間ここに閉じ込められてきた存在の、複雑な沈黙だ。

「分かった」とヴァズはやがて言う。「強制はしない。しかし覚えておけ。ヴォルカネスはお前の紋章の力を必要としている。取引なしでも、お前はあそこへ引き寄せられる。それだけは変わらない」

廊下の先で、かちかちという機械音がした。壁の石組みが動き、隙間から黄色い霧が噴き出してくる。そして現れたのは──人でも獣でもない何かだ。

高さ二メートル。全身が黒い金属と透明な管で構成されており、管の中を発光する液体が循環している。胸部のガラス球の中で、小さな星のような核が回転している。黄金時代の賢者が設計した「自動警戒結界」──コードネーム「デフ・コン・ワン」。三百年間この廊下を守り続けた、ケミカル反応式の機械守護者だ。

化学的な攻撃ゆえ、3ラウンドごとに毒霧(追加ダメージ)を放出する。

二百六十八

三番目の石板を押すと、壁が音もなく横にずれた。幅一メートルほどの隠し通路が現れる。黄金時代の建築特有の精密な構造だ。

通路の奥に部屋がある。埃が厚く積もっており、床の足跡は一つもない。三百年間、誰も踏み込んでいない。

棚の奥に、革袋に包まれた何かがある。慎重に広げると、金属製の冠が現れた。精巧な細工で作られており、額の部分に小さな宝石が埋め込まれている。内側に古代文字が刻まれている。「サカムビット公——三百年前の星脈術師国家の最後の君主。力の象徴にして、呪いの器」

王冠をかぶった者は、常人を超える力を得る。しかし歴史はこれを「滅びの王冠」とも呼ぶ。あなたはそれを手に取った。

二百七十二

壁の一部が、わずかに色が違う。よく見ると継ぎ目があり、押すと石がずれて小さな部屋が現れた。

部屋の中央に台座がある。その上に剣が置かれている。長さは普通の剣の半分ほどだが、刃が異常に厚い。黄金時代の特殊合金製だ。刃を見るだけで、それが武器以上の何かであることが分かる——光の当たり方が普通の金属と違う。

台座の足元に古い骨がある。ここで死んだ者がいる。剣を取ろうとして、何かに掛かったか。

地下二層は、一層とは空気が違う。湿度が高く、壁が薄く濡れている。発光石の光が青から金色に変わり、床は石ではなく何か柔らかい素材で覆われている——踏むと微かに沈む。

廊下の曲がり角を曲がると、何かが立っている。

二百八十四

神殿区画の入口に、何かが立っている。人間の形をしているが、人間ではない。高さは二メートル半。全身が錆びた古代の鎧に包まれているが、鎧の隙間から見える肌は石のような灰色だ。目の位置に、赤く発光する石がはめ込まれている。

それが動いた。重く、しかし確実に。

二百八十九

祭壇の間は広く、天井が高い。中央に石の台座があり、その上に水晶の球体が置かれている。球体の内部で、青白い光が渦を巻いている。ザル=カラムの外からも見えていたあの光の源はこれだ。

台座に近づくと、左手の紋章が激しく熱くなる。痛みに近い。球体があなたに反応している——光の渦が速くなる。

台座の縁に刻まれた文字が読める。「星脈の核。ヴァルデアの大地の脈の根源。触れた者は、力を得るか、力に飲まれるか」

二百九十七

古代の守護者は、最初、人の形をしているように見えた。しかし近づくと分かる。人の骨格を精巧に模した骨組みに、黄金時代の武具を纏わせたものだ。関節部分に発光石がはめ込まれており、それが動力源になっている。

三百年間、ここを守り続けてきた機構だ。止まる理由がない。止める命令も受けていない。

三百十二

守護者は崩れ、石の破片になった。最後の一撃を受けた瞬間、守護者の全身が青白い光を放った。まるで眠りにつくように——静かに、崩れていった。水晶の破片が床に散らばり、光を失って普通の石になった。

三百年間この場所を守り続けた機構が、終わった。エイサーが静かに言う。「ありがとう」。その声が廊下に消えていった。

三百二十四

星の間。天井一面に光点が散っている。三百年前の夜空だ。あの爆発の前の空が、ここに残っていた。

部屋の中央の台座に、人型の光が立っている。輪郭が揺れている。

三百三十三

あなたは剣を構えたまま、祭壇へ向かって走った。周囲から敵の気配が押し寄せてくる。ヴォルカネスの意識から生まれた幻影だ。死んだ冒険者たちの姿をしている。顔は知らないが、紋章がそれを記録している——あなたが来る前に命を落とした全ての者たちだ。

幻影は実体を持つ。剣が通る。しかし倒しても倒しても、新しいものが現れる。

三百四十一

あなたは剣を下げた。眼前の存在は戦意を持っていない。それが肌で分かる。これはヴォルカネスの断片だ——三百年の封印の中で分離した、オルト=ヴァルの意識の残滓。憎しみも怒りもない。ただ、疲労だけがある。気の遠くなるような、三百年分の疲労が。

「話したいことがある」とその声は言う。「三百年間、ずっと待っていた。聞いてくれる者を。ただ、話を聞いてくれる者を」

三百五十六

あなたたちはミヤトの街道に出た。ヴァルデア南北を縦断する最古の交易路だ。黄金時代の石畳がまだ残っているが、三百年の放置で至る所が割れ、草が根を張っている。かつてここを往来した商人たちの面影は、もうどこにもない。

ここからいくつかの方向に進める。どちらへ向かうか、選択しなければならない。

三百六十二

ニフルユーム王国の城門は高く、黒い石で造られている。この王国はヴァルデアの断片の時代における最後の大国だ。黄金時代の崩壊後も組織的な統治を維持し、三百年間存続してきた。その誇りが、高い城壁と厳めしい門番の態度に表れている。

門番はあなたの左手を一目見て、すぐに隊長を呼んだ。「王が会いたいと言っていた。紋章持ちが来たら、必ず王宮へ連れて来るようにと。命令だ」

門番があなたを止めた後、後ろから別の男が歩み出た。絹の装束を纏い、長い爪を持つ中年の男。温和な笑みを浮かべているが、その笑みは目まで届いていない。

「旅のお方、ようこそ」と男は言った。「私はギューズ・ヘッドと申します。王国の"おもてなし係"でございます」彼の左手が袖の中へ消えた。「残念ながら──本日は貴方様のご入場を、お断りするよう命じられておりまして」

袖から短剣が二本、滑り出た。左右の手に一本ずつ。笑みは変わらない。
【特記】偶数ラウンドに急所を狙う連続攻撃(ダメージ+1)。

三百六十八

「ザル=カラムで発見された星脈術の知識は、すべてニフルユーム王国に引き渡すこと」と王は言う。謁見の間の空気が冷たい。「それがわれらの条件だ。支援の対価として」

ゴルムが拳を握る。「それは遺産だ。ヴァルデア全体のものだ。一国の財産にするものじゃない」

王は動じない。「条件に従うか否かだ。それだけを聞いている」

三百七十一

タンガリー山岳の麓から、トール=グルムへの道は急峻だ。タンガリー山岳はヴァルデア北西に連なる大山脈で、最高峰は厚い雲に隠れて見えない。かつてはドワーフ族の聖地だったという。今もその荘厳さは変わらない。

山道を登ると、岩を削って作られた石造りの集落が見えてくる。壁は高く、鉄製の重い門がある。

三百七十五

族長は年老いた女性ドワーフだ。名をヴァルナという。齢は百五十を超えているという。顔の皺は深いが、目は鷹のように鋭い。

「紋章持ちか」と彼女は言う。立ち上がりはしない。ただその目であなたを測る。「ドゥルムから聞いていた。五十年前、彼はここへ来て、あなたのような者がいつか現れると言った。その者に力を貸せ、と」

「ドゥルム・ゴルムの弟だ。あなたの仲間の弟だ。彼は正しかった」

三百八十三

テニスタ・テニストの深部に踏み込んだ。この森はヴァルデア北部に広がる大森林で、歩いて三日では抜けられない。エルフ語で「星が歌う森」という意味だ。夜になると木々が微かな光を放つという。

シラが先導する。その足音は草の上でも消えている。エルフの歩き方だ。

森の番人が現れた。

木々の間から、背の高いエルフが優雅に歩み出た。長衣の裾が地面に触れることなく浮き、左右の瞳の色が異なる。月光色と深海色。

「ごきげんよう」と彼は言った。発音が完璧すぎて逆に不自然だ。「この森への立ち入りはご遠慮いただいております。もちろん、腕ずくで通ろうとされるならば──」銀の細剣が鞘から滑り出た。「──喜んでお相手いたしますわ」

【特記】このエルフは敗北した場合、「参りました」と一礼し、一筋の霧となって消える。殺すことができない。

三百九十一

「一人で行く」とあなたは言った。

ゴルムが眉を顰めた。「馬鹿なことを言うな。三人で入るのと一人で入るのでは、生き延びる確率が三倍違う」

「分かっている」とあなたは言う。「だが、これは私一人の問題だ。紋章は私のものだ。お前たちの命を道連れにする理由がない」

沈黙がある。重い沈黙だ。

三百九十七

ミヤトの街道を南へ走る。荒野が変わっている。草が枯れている。土が黒ずんでいる。空の色がおかしい。普通の青ではなく、緑がかった不自然な色だ。雲が渦を巻くように集まり、その中心がザル=カラムの方角だ。

ヴォルカネスの力が、遺跡の外へ漏れ始めている。これ以上は待てない。

四百二

ザル=カラムへ続く荒野に、生き物の気配が完全に消えている。虫の声がない。風もない。砂すら動かない。遺跡に近づくほど、世界が静まり返っていく。空の渦は巨大な目のようにザル=カラムの上で回転し続けている。

あなたの左手が、今まで感じたことのない熱さを持っている。紋章が発光している。止めることができない。

四百二の二

隠し通路の先は、石造りではない。床が滑らかだ。継ぎ目がない。触れると冷たいが、石でも金属でもない。壁も同じ素材で、表面に細い線が幾何学的なパターンで刻まれている。黄金時代の技術だが、他で見たものとは違う。

パターンが光っている。あなたが近づくにつれ、光が強くなる。左手の紋章に反応している——共鳴しているかのように。

部屋の中心に、何かがある。

四百二の三

それは倒れなかった。ゆっくりと膝をついた。機械的な振動音が低くなり、赤い光が明滅し、消えた。

最後の一撃の後、しばらく動かなかった。それから、頭部が床に触れた。静かに、粉砕するでもなく、溶けるでもなく、ただ停止した。

何かが終わった感覚がある。廊下に静寂が戻った。

ラルハス再登場

声がした。

「やっと来たか」

ラルハスが、壁に背を当てて立っている。革鞄はない。長剣も抜いていない。右腕に包帯を巻いている。何かに噛まれたか、罠に引っかかったか。

「この先は俺が先に来た」と彼は言う。「祭壇は開いてた。紋章なしでも入れた。お前の紋章は必要なかった」

笑いはない。ただの報告だ。「でも出られなかった。何かに阻まれた。だからお前を待った」

彼は立ち上がった。「もう一度だけ一緒に行く。俺は道を知っている。お前は鍵を持っている。同じ条件だ」

「また捨てる気か」

「それはお前が決めることだ」とラルハスは静かに言った。「俺は選択肢を出しているだけだ」

四百十五

地下三層は、上の二層とは根本的に異なる。石造りではない。壁も床も天井も、全て黒水晶で覆われている。その表面を、無数の古代文字が光りながら流れている——まるで文字が生きているかのように、止まることなく。三百年前の黄金時代の賢者たちが、ここに全ての知識を刻み込んだのだという。

空気が、皮膚に触れるだけで電気のような刺激を与える。星脈術のエネルギーが限界まで凝縮されているのだ。呼吸するたびに、何かがあなたの中に入ってくるような感覚がある。

部屋の中央に台座がある。その周囲に、人型の光の残滓がある——誰かがここに立っていた。最近のことだ。

「来たか」と声がした。

四百二十八

声は静かだ。怒りでも、憎しみでも、脅しでもない。疲れた者の声だ——三百年間、暗闇の中に封じられ続けた者の、極限まで消耗した声。

「来てくれたのか」と声は言う。「ずっと待っていた。紋章持ちを。あなたを」

声の主はヴォルカネスだ。かつてオルト=ヴァルと呼ばれた男の声だ。今は、三百年の時間がそれを変えてしまっている。

四百三十七

崩れる音がした。星の間が震えた。

あなたは倒れた。体が悲鳴を上げている。しかし勝った。

「生きてるか」

四百三十七の二

ドーランに戻ったのは、三日後のことだ。荒野の空は、三百年ぶりに澄んでいる。ザル=カラムの光は消え、空の渦も消え、枯れかけていた地平線の草が、一夜のうちに緑を取り戻した。星脈の力が正しく解放され、大地の脈に還ったのだ。

「錆びた剣亭」の扉を開けると、マグダが一瞥した。そしてすぐに目をそらし、黙って杯に酒を注いだ。カウンターの端に置く。それだけだ。何も言わない。言葉は要らない。

ゴルムは一週間後、タンガリー山岳へ帰った。出発の朝、彼はあなたに戦斧を差し出した。断ると、「戻ってきた時にまた受け取れ」と言って、荒野へ消えた。ナックは残った。「この街の情報屋を続ける」と彼は言う。「ただし前より少し値上げする。証人になった分だ」。耳がぴんと立っている。シラはエルフの里へ戻った。別れ際、彼女はあなたの左手を見た。紋章は消えている。「これで、私の三百年が終わった」とシラは言う。その顔に、感傷はない。役目を終えた者の、静かな顔がある。

あなたは、また旅に出た。今度は呼ばれてではなく、自分の足で。左手の甲は何も感じない。ただ、あの熱の記憶だけが残っている。

ヴァルデアに、新しい時代が始まる。

四百四十六

ヴォルカネスが崩れる音がした。あなたはその場に倒れた。意識が遠い。体が悲鳴を上げている。それでも、確かに勝った。

「生きてるか」

四百四十六の二

ザル=カラムから出た時、夜が明けかけている。

東の空が橙色に染まり始め、三百年間歪んでいた星脈の霧が、朝の光の中に溶けていった。完全な解放ではなかった。ヴォルカネスは滅び、封印は保たれた。しかし大地の脈は静かになり、荒野の草が少しだけ色を取り戻している。

――名もなき流れ者の旅は、まだ終わっていない。
四百五十五

取引は成立した。ヴォルカネスの力があなたの中に流れ込んだ瞬間、左手の紋章が黒く染まった。熱ではなく、冷たさだった——骨の芯まで凍るような冷たさが。ヴォルカネスは消えた。しかし消えたわけではない。あなたの中に溶け込んだ。

ゴルムが階段の上から降りてきた。あなたの顔を見て、足が止まる。老ドワーフは長く生きてきた。様々なものを見てきた。しかし今の表情は、初めて見るものだった。「……お前は」と彼は言う。シラは何も言わなかった。ただ目を伏せた。

数週間後、断片の時代に新たな支配者が現れたと人々は語った。その者の左手には黒い冠の刻印があり、目は青白く光っている。ヴァルデアに平和は訪れた。しかしそれは、恐怖による平和だった。

「あなたは英雄にはなれなかった。だが、歴史に刻まれる名を手に入れた」

四百六十四

力が、止まらなかった。猿の右手が最悪の結果を引いた瞬間、左手の紋章が全身に広がり始めた。皮膚の下を流れるように、光が体中に広がっていく。

ヴォルカネスは確かに滅んだ。しかしその力を受け止める器として、あなた自身が砕けていった。痛みはない。ただ、光だけがある。

あなたは世界を救った。世界はそれを知らない。

四百七十三

あなたは倒れた。石の床が冷たい。

最後に見えたのは左手の紋章だった。まだ光っている。消えることなく、最後まで。

荒野の風が吹き込んでくる。あなたの冒険はここで終わった。

五百一

荒野の野営は過酷だ。ヴァルデアの荒野は昼間は灼熱だが、夜は急激に冷える。地表に熱を蓄える植物がほとんどないためだ。三百年前の星脈術の暴走が、この大地を変えてしまった。

廃村が見えてくる。かつてはミヤトの街道沿いの宿場だったらしく、石造りの建物の骨格だけが残っている。屋根は落ち、壁は崩れかけているが、風を凌ぐ場所にはなる。

五百二

廃村の残骸の中に、人の気配がある。屋根は落ち、床は草に覆われているが、奥まった場所に、まだ壁が残っている一角がある。井戸も生きている。

建物の影に、人が一人いた。女だ。若い。革鎧を着ているが、腕に包帯を巻いており、その包帯には血が滲んでいる。歩くのが辛そうだ。顔は土と汗で汚れている。ザル=カラムから逃げてきた——それは一目で分かる。目の中に、あの遺跡を見た者だけが持つ何かがある。

五百三

食料か回復薬を渡すと、ロサは素直に受け取った。「ありがとう」と彼女は言う。「助かった。本当に」

しばらく体を休めてから、ロサは話した。「中で何を見たか話す。信じるかどうかはあんたたちが決めていい」

彼女が見たのは、地下一層の奥に刻まれた石碑だ。十五人の仲間の名が、すでに刻まれていた。自分たちが入った瞬間には。そして石碑の前で、声を聞いた。低く、くぐもった声が。「返せ」と言っている。何を返せと言っているのか、分からなかった。

「一つだけ教える。中に古い日誌があった。研究者のものだ。地下一層の奥の、三番目の部屋の机の上にある。役に立つかもしれない」

五百四

物資を渡せなかったが、ロサは話してくれた。「地下一層の奥に、石碑がある」と彼女は言う。「十五人の仲間の名前が刻まれていた。私たちが入った時から、すでに。あそこに入った者の名前が、入った瞬間に刻まれる。死者の記録だ。でも、その中に一つ、文字が新しかった。鑿で今日刻んだばかりのように」

ロサは包帯を締め直した。「あの石碑の前で、何かの声を聞いた。返せ、と言っていた。私には何の意味か分からなかった。でも、あんたには分かるかもしれない」

五百五

古代街道の脇に、荷馬車が一台止まっている。御者の老人が馬に水を飲ませている。「旅人かい」と老人は言う。顔を上げもしない。「こんな時間にこの道を行くとは物好きな。ザル=カラムへ向かうのか」

五百六

荷台の幌をめくると、木箱と革袋が積み重なっている。老人が扱う品は簡素だが、荒野の旅には十分だ。

五百七

「ここ一月で、この道を通った冒険者の数を数えたら二百人を超えた」と老人は言う。馬の首を撫でながら、淡々と話す。「全員ザル=カラムへ向かった。帰ってきたのは……十人もいないかな。数えるのを途中でやめた」

「それでも商売になる。死にに行く者ほど、道中で金を使う。覚悟を決めた人間は惜しまない。人の命より商売の方が長続きする」

老人は馬の水を取り替えながら、淡々と言う。

五百八

族長のオーク、名をラグタルという。交渉に応じた後、彼はしばらくあなたを見つめた。「紋章を持つ者のことは、われらの間にも伝わっている」と彼は言う。「断片の時代の終わりを告げる者。その者が来た時、われらは道を開ける——そう言い伝えられている。喜ばしいかどうかは分からない。しかし、われらはその者を妨げない」

通行を許可する。

五百九

森の中でシラが立ち止まった。木に片手を当てて、しばらく動かない。その手が細かく震えている。ゴルムが振り返る。ナックの耳がぴくりとした。

「どうした」とゴルムが言う。

シラは答えない。目を閉じている。しばらくして、「……声が聞こえる」と言う。「木が話している。古い言葉だ。急げ、と言っている。もう時間がない、と」

五百十

ナックが足を止めた。耳がぴんと立っている。ゴブリンの耳が立つ時は、何かを聞いているか、何かを真剣に考えているかのどちらかだ。

「なあ」とナックは言う。「言いたいことがある。ザル=カラムに入る前に言っておかないと、もう言えなくなるかもしれないから」

耳がゆっくり倒れた。「おれは怖い。最初から怖かった。でも、それよりもあんたについていきたかった。なぜかは分からない。情報屋の直感とかそういう話じゃなくて、もっと別の何かだ。あんたの紋章が本物だから、じゃないかもしれない。ただ、ここにいたかった」

五百十一

ナックが何か言いたそうにしている。古代街道を進みながら、ゴブリンの耳が何度もぴくぴくと動いている。目が荷馬車の方をちらちら見ている。気になることがある。

あなたはナックに声をかけた。

五百十二

老人のもとへ引き返すと、彼はまだ馬に水を飲ませている。布を被った箱について問うと、老人の顔色が変わる。しかし逃げなかった。長い沈黙の後、彼は小さく息をついた。

「あんたは紋章を持っている。だから教える。その箱の中は、闇の商会の荷物だ。私は運び屋だ。中身は知らない。本当に知らない。ただ、ザル=カラムへ運ぶように言われた」

六百一

正面から踏み込むと、二体の石像が同時に動いた。目が赤く輝き、石の擦れる音が夜の荒野に響き渡る。高さ五メートルの番人ゴーレムが、地面を揺らしながら前に出てくる。左右から挟むように、通路を塞ぐ形で迫ってくる。

退路はない。

六百六

実験室の机は廊下の奥、三番目の扉の先にある。机の上には古い書物や羊皮紙が散乱している。三百年の埃を被っており、触れると崩れそうなものもある。ほとんどは判読できないが、ナックが「これだ」と一枚の羊皮紙を慎重に拾い上げた。

「番人ゴーレムの停止呪文だ」とナックは言う。「文字は読めないが、図が描いてある。こういう順番で石を押せばいいらしい。三つの石板を、この順番で」

羊皮紙には三つの石板の位置と順序が示されている。

六百七

ヴァズは長い間、沈黙した。靄が揺れる。三百年間、誰にも問われなかった問いを、今ようやく聞かれた者のように。

「私はオルト=ヴァルの弟子だった」とヴァズは言う。「師が変わった時、私は止めようとした。止められなかった。師と共に封印された。しかし師の封印とは別の場所で。三百年間、師の変化を見続けた。人が怪物になっていく様を、離れた場所から」

「今の師は、オルト=ヴァルではない。ヴォルカネスだ。しかし、その奥に師の意識の残滓がある。私にはそれが分かる。それがまだ残っている限り——完全に滅ぼすことはできないかもしれない」

ラルハス裏切り

扉の向こうに、人影があった。

ラルハスだ。こちらに背を向けて、何かを操作している。扉の閂だ。

「何をしている」

振り返ったラルハスの顔に、もう疲労はなかった。整った顔立ちに、静かな冷たさだけがある。「悪く思うな」と彼は言った。「ここまでに価値があった。でも、俺が必要なのはお前じゃない。紋章だ」

彼は革鞄から何かを取り出した。黒い金属の筒だ。「闇の商会から預かっている。この先の祭壇で使う。お前の紋章があれば、扉が開く。だから連れてきた」

「最初から?」

「最初から」とラルハスは答えた。「地図も、ゴーレムの情報も、全部本物だ。嘘はついていない。ただ、目的を言わなかっただけだ」

彼は扉の閂を引き、向こう側へ出た。「この先は一人で行け。紋章があれば開く。俺の仕事はここまでだ」

扉が閉まる音が響いた。振り返った時には、もう遅い。

六百八

地下二層への階段の前で、ゴルムが足を止めた。背中を向けたまま、戦斧の柄をゆっくりと握り締める。右手の四本の指が白くなるほど。

「一つ聞いていいか」とあなたは言う。「五本目の指は、いつ失った」

「五十年前だ」とゴルムは答える。「ここで失った。あの時、弟と二人でここまで来た。弟は降りていった。私は怖くて、降りられなかった。弟を一人で行かせた。そのまま戻らなかった。今日は降りる。五本目を取り戻しに来たわけじゃない。弟の名前を確かめに来た。それだけだ」

ゴルムは階段を降り始めた。

六百九

廊下に霧が漂っている。地下二層に降りた直後から、足元に白い靄がある。膝の高さまで積もり、歩くたびに渦を巻く。床が見えない。落とし穴があっても気づけない。

廊下の先から、音がする。

六百十

「星脈の鏡」を取り出すと、鏡面が青白く輝いた。地下二層の空気に反応している。シラが息を飲んだ。「それは……ここで作られたものだ。三百年前に。あの時代の職人が、星脈の力を閉じ込めて作った」

鏡面を廊下に向けると、霧が動いた。霧の中に、何かが映っている。

六百十一

廊下は長い。石造りの床に古い血の跡があり、壁には無数の爪痕が残っている。前の冒険者たちの跡だ。ここで力尽きた者の、最後の痕跡だ。

突き当たりに、扉がある。

六百十二

守護者が崩れた後、廊下に静寂が戻った。石の破片の中に、何かが光っている。守護者の冠から外れた水晶だ。拾い上げると、手のひらの中で温かい光を放っている。壊れていない。

「観念の結晶」と同じ素材に見える。守護者を動かしていた動力源の一部だ。手の中で脈動している——まるでまだ生きているかのように。

六百十三

ゴルムが立ち止まった。星の間への入口の前で。階段の上から下を覗き込んで、動かない。振り返った。その目が、珍しく揺れている。

「ここから先は」とゴルムは言う。声が低い。「五十年前、私はここで引き返した。弟と二人で来て、弟だけが降りていった。私は怖くて、降りられなかった。弟を一人で行かせた。今日が初めてだ、この先に足を踏み入れるのは」

「今日は降りる」

六百十四

ナックが、耳を垂らしている。いつも好奇心でぴんと立っているナックの耳が、今は力なく下がっている。珍しい光景だ。

「おれ、ここまでだ」と彼は言う。小さな声だ。「地下三層は……おれの領域じゃない。情報屋が踏み込んでいい場所じゃない。直感でそう分かる」

「待ってる。上で。帰ってきたら、とっておきの情報を教える。ただし有料だ」

耳がほんの少し上がった。

八百一

ドーランは変わっていない。荒野を歩き、街門をくぐると、見覚えのある埃と獣脂の臭いがした。「錆びた剣亭」の扉を押し開けると、マグダが布巾で杯を拭きながら一瞥した。

「生きてたか」とマグダは言う。それだけだ。杯に酒を注いで、カウンターの端に置いた。

八百五

道中、ナックがあなたの隣を歩きながら話しかけてきた。耳が横に倒れている——緊張しているか、言いにくいことがある時の癖だ。

「なあ」と彼は言う。「おれ、ずっと考えてたんだが。あんたが紋章を持ってなかったとしても、おれはここにいたと思う。金目当てとか、情報屋の仕事とか、そういう話じゃなくて」

耳がぴんと立った。「……言いたかっただけだ。忘れてくれ」

八百六

野営の火を囲んでいると、シラがあなたの隣に座った。いつもは少し距離を置いているエルフが、珍しく近い。火の熱が顔に当たる距離だ。

「三百年間」とシラは言う。「待ち続けた。その意味が、ようやく分かった気がする」

火が揺れた。シラはそれを見たまま、続ける。「あなたに会うためだった、と言ったら、信じるか」

返答を待たずに、シラは立ち上がった。

八百七

出発前夜、焚き火の前に座っていると、ゴルムが隣に来て腰を下ろした。何も言わなかった。しばらく火を見ている。ドワーフが黙って隣に座る時は、何かを言おうとしている。

「弟の名は、ドゥルムという」とゴルムはやがて言う。「弟はこう言っていた。ザル=カラムには答えがある。どんな答えかは分からないが、答えがある。だから行く、と」

「五十年経って、弟が正しかったと思う」

九百一

階段を下り始めた。

最後の一段を踏む前に、ゴルムが低く言った。「戻ってこい」

それだけだった。それで十分だった。

地下三層は、上の二層とは根本的に異なっている。石造りではない。壁も床も天井も、全て黒水晶で覆われている。その表面を、無数の古代文字が光りながら流れている——まるで文字が生きているようだ。三百年前の黄金時代の賢者たちが、ここに全ての知識を刻み込んだのだという。

空気が、皮膚に触れるだけで電気のような刺激を与える。星脈術のエネルギーが限界まで凝縮されているのだ。呼吸するたびに何かを吸い込む感覚がある。

部屋の中央に台座がある。黒水晶の台座の上に、光る球体が浮いている。直径三十センチほど、青白く輝く球体。これが星脈の核だ。ヴォルカネスがここに封印されている源泉だ。

球体に近づくと、頭の中に声が聞こえた。

「ようやく来た」と声は言った。「遅かった。あるいは——ちょうど良かったのかもしれない」

声は静かだった。怒りでも、憎しみでも、脅しでもない。三百年間、暗闇の中に封じられ続けた者の声だ。

九百三

あなたは剣を下げた。「オルト=ヴァル」とあなたは呼んだ。

静寂が広がった。祭壇の上の半透明の存在が、止まった。揺らめきが消えた。青白い光が、一瞬だけ穏やかな金色に変わった。

「……その名を呼んだのは、三百年ぶりだ」と声が言う。「ありがとう」

百三十八
冒険者ステータス
体力点 STAMINA—/—
—/—
—/—
—/—
—/100
⏱ 生存時間 0秒
ダイス
経験値・レベル
Lv.1 ならず者の無頼漢
🧠 100
経験値 0
猿の右手
所持品
冒険の記録
まだ記録なし
ローグ引き継ぎ
累計死亡 0回
引き継ぎ強化 なし
解放イベント 0件
メモ・フラグ
セーブ
セーブデータなし
現在地:
localStorage cur:
フラグ数:
▼ 起動テスト